北海道函館市出身。カナダ留学時、登山・ロッククライミングの世界に触れたことをきっかけに、山岳写真を中心とした撮影活動を開始。以降、ポートレートなどジャンルを問わないアプローチで創作活動を展開している。
2016年12月12日、俳優・奥野瑛太と千駄ヶ谷の街を歩いた。金色刺繍の力道山ジャンパーが眩しい。 奥野は熱心なプロレスファン、力道山三世こと百田力選手とは公私にわたって交流がある。
鳩森八幡神社前交差点そばの書店「 ブックハウスゆう」。店先に並べられたTシャツに惹かれ暖簾をくぐると、奥には色違いも含め数種類がラインナップされている。Tシャツはお店のご主人・斎藤祐さん考案のオリジナル商品。奥野が選んだデザインのモチーフを伺うと、三角の形状は鳩森八幡神社にそびえる千駄ヶ谷の富士塚、2匹の獣は明治神宮外苑・聖徳記念絵画館の正面に並ぶ像、2020は東京オリンピックの開催年を指していると教えてくれた。
千駄ヶ谷は作家・村上春樹にゆかりのある地、設けられた棚には数多くの書籍が並べられている。同氏の署名入り用紙に、コピーとは言え恐縮しながらサインをする奥野。
ご主人、奥様に別れを告げ、僕らはTシャツのモチーフを巡る冒険に出ることを決めた。まずは休憩、お店を探して千駄ヶ谷グリーンモールを歩く。
鮮やかな水色の壁。ソフトクリームとカフェのお店「 LAITIER(レティエ)」。どこを訪ねても飾りのない姿でお店になじむ奥野。ソフトクリームは濃厚なお味で絶品。
鳩森八幡神社へ。富士塚は寛政元年(1789年)の築造と言われ、昭和56年に都指定の有形民俗文化財となった。神社近くには、プロ棋士・桐山零と彼をめぐる人々の物語『3月のライオン』にも登場する将棋会館がある。奥野は実写版映画に出演し、新人王を目指す零の宿敵、山崎順慶を演じている。
建設中の新国立競技場の脇を歩きながら明治神宮外苑を目指す。時折開く搬入口から中の様子が窺い知れるが、その大きさには圧倒される。やがて聖徳記念絵画館に到着すると、その像は確かにあった。商店街からそれほどの距離もない場所に。
かつて奥野に街についてのインタビューをしたことがある。育った街や好きな街の話だ。北海道苫小牧市に生まれ、大学進学で埼玉県へ。在学中から小劇場での活動のために下北沢に通い、卒業後はそこから2、3駅離れた街に移り住んだ。多くがうずまく下北沢から少し距離を置いて暮らしたい気持ちがあったのだという。
千駄ヶ谷は、新宿御苑、明治神宮、神宮外苑と三方を緑地に囲まれ、渋谷や新宿のターミナル駅にもほどなくの街。歩けばすぐに表情を変える。神宮外苑からの帰り道、夕暮れがもたらす光にどこか寂しいような思いがした。
東京オリンピック開幕式まであと1210日。
2017年4月01日(土)
写真・小林鉄兵
文・岡本英之
奥野瑛太(おくの・えいた)
1986年2月10日生まれ。北海道出身。『SR サイタマノラッパー』(09/入江悠監督)のMC-MIGHTY役で映画デビュー。主な出演作は、『クローズEXPLODE』(14/豊田利晃監督)、『そこのみにて光輝く』(14/呉美保監督)、『海賊とよばれた男』(16/山崎貴監督)、大友啓史監督の『ミュージアム』のアナザーストーリーで白石晃士監督の「ミュージアム -序章-」(16・WOWOW)、『新宿スワンⅡ』(17/園子温監督)、『キセキ -あの日のソビト-』(17/兼重淳監督)など。公開待機作に『曇天に笑う』(18/本広克行監督)がある。
©2017映画「3月のライオン」製作委員会