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小川あん in 玉野市 1
写真:熊谷直子

 文:岡本英之

 2016年11月17日午前、僕は、写真家の熊谷直子と高松駅にいた。香川県を巡る取材の旅で2日間を過ごし、これからフェリーで岡山県玉野市の宇野港へと向かう。駅にいたのは高松空港からやってくる女優・小川あんを迎えるためだ。玉野について書くためには、自身を語ることを避けて通れない。この街の荘内という地区で高校を卒業するまでを過ごした。港とは真逆の山に囲まれた盆地で、冬場は屋外に置いたバケツの水が厚い氷に変わる。進学で東京に出てしばらくした頃、実家が海辺に越した。田井という地区に新しく作られた分譲地で、海辺に暮らすことは父親の夢だった。今はその頃に生まれた子供たちが成人を迎えるほどの時間が経った。大人になってからも3年と6ヶ月の時間をこの街で暮らした。マチビトという構想を思い描いたのはちょうどその頃、2011年の暮れのことだ。

 10代20代と、僕にはこの街に何もないように感じられた。30代になり、家業を手伝いながらの暮らしの中で思い描くことはあっても、何をできることもなかった。桜の季節に未来を思い描く若者たちは、いまこの街に何を思うだろうか。僕はその美しさを世界中の旅人に、これから街を出て行く人、帰ってくる人、どこか違う街からやってくる人、全ての人々に伝えていきたいと思っている。同じように、たくさんの街の美しさ、その魅力を表現者たちと一緒になって伝えていきたいと思っている。そんな風に本当に思えるようになったのは30代も後半になってからのこと、この旅にも大きな影響を受けてのことだ。人間を通じて得られたその実感をこれから綴っていく。この文章を書いている翌日、2018年3月29日に小川あんは20歳の誕生日を迎える。僕らはこれから18歳の彼女と旅に出る。

小川あん

1998年3月29日生まれ。東京都出身。2014年『パズル』(監督:内藤瑛亮)で映画初出演。以後、女優として映画・ドラマ・CMと幅広く活躍。主な出演作に、『天国はまだ遠い』(監督:濱口竜介)、『ピンカートンに会いにいく』(監督:坂下雄一郎)、静岡放送『超ドSナイトの夜』(監督:柴田啓佑)など。2018年は iaku+小松台東「目頭を押さえた」で舞台初主演。メイン声優に起用された、日清カップヌードルCM「HUNGRY DAYS 最終回篇」が放映中。3月30日、24:55〜フジテレビ「平成物語」(監督:松本花奈)第2話が放送。

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