兵庫県尼崎市出身。20歳で渡仏し写真・芸術を学ぶ。2003年よりフリーランスフォトグラファーとして活動開始。主に雑誌、広告、CDジャケット、舞台などで撮影しつつ、自身の作品も個展にて発表。主な著書に「anemone」、「月刊二階堂ふみ」、本格作品集「赤い河」、2018年3月に発売となった、女優・杉咲花の1st写真集「ユートピア」がある。
富山市のよる
初めて訪れた富山市は思っていたより大きな都市でとてもゆったりとした時間が流れていた。
この旅の目的は美味しいお酒とここに暮らす人々に出会うこと。気の向くまま街中を行ったり来たり。小雨降る小径もまた風情なり、と。
「酒家蔵部」。酒屋が酒場になるお店、角打スタイルの豪華版。
なんて魅力的な響きなんだろう。出てきたお通しでさえこの美しさ。珍しい日本酒も飲めるとあり開店と同時に常連のお客さんで賑わう。
昼は石坂善商店、夜は酒家蔵部を切り盛りする石坂さん親子。
そして私たちが運良く入れたことに驚いていたのは、予約がなかなか取れずやっと来ることができたと満面の笑みを浮かべていた隣のお客さん(金定さん)。
実はこちらの金定さん、その日のお昼に伺った氷見のSaysfarmを建築した設計事務所に勤めていると。なんと言うご縁かと大いに盛り上がり大いにお酒も進む。良い夜、良い出会い。
〆に頂いた富山でよく食べられるという「とろろ昆布のおむすび」もまた絶品。美味しいお酒と美味しい肴がこんなにも揃うなんて要予約も納得。
ほどよく酔いもまわり、二軒目に向かったのは酒家蔵部の石坂さんに教えて貰った新世界にある「缶詰工場」。
中に入ると壁一面に缶詰が積まれ独特の雰囲気を醸し出している。
「うちは一見さんには冷たい店なんで」とニコニコ話す店主(ミノルさん)。裏腹なこの感じ嫌いじゃないな。
すぐに常連のお客さんも現れた。私たちが観光客だと知り「よくこんなお店に来ましたね〜!」とニコニコと話すTomoyoさん。店主が店主なら客も客だ(笑)。近所に住んでいたら間違いなく私も常連になり同じことを言っているのだろう。
どうしてももう一軒行きたいお店があり、後ろ髪引かれつつもまた来ることを約束し缶詰工場を後にする。
「alpes」。昨年秋にオープンしたばかりの自然派ワインバー。
店主の池崎さんは東京やフランスで修行を積み故郷富山に戻ってこられたとのこと。彼のことは共通の友人たちより「ザックさん」の愛称となかなか面白い人柄として聞いていて会えることを楽しみにしていた。
もう閉店時間は過ぎているだろうに快く迎えいれてくれた。以前スナックだったお店を改装しているからか、オープンしたばかりなのに少し懐かしさも感じる居心地の良い空間。彼の選曲もここに足を運ぶ理由の一つだろう。
少し小腹が空いた私たちに前菜などを盛り合わせて作ってくれた一皿は、ここに流れる空気と似た心温まる味がしてワインのすすむ夜更けとなった。
ザックさんの東京やフランスでの逸話は良い酒の肴になるので彼の薦めるワイン片手に直接聞いてみて欲しい。富山の土地の豊かさと奥深さを存分に味わった長く深い良い夜良い出会いだった。